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三人虎を成(な)す――あなたは信じる? 信じない?

三人虎を成す

はじめに

 

ご機嫌よう!
漢検漢字教育サポーターで塾講師の有でございます。

さて、本日のテーマは「三人虎を成(な)す」です。
「真実でないうウソやウワサも、
多くの人が口にすることによって真実と思われるようになる」
という意味の言葉です。


今日は9月3日ということで、
3のつく故事成語を選んでみました。

 

虎が出たぞ!

 

虎の写真

 

中国の歴史書『戦国策』にのっているお話です。

昔々の紀元前、戦国時代の中国に、
魏という国がありました。
魏の国には恵(けい)王という王様がいました。
この王様は一言でいうとポンコツで、
あの孟子にイヤミばっかり言われた人です。

……それはさておき、
本日登場するのははこの恵王です。


魏の王子様(恵王の息子で、跡継ぎ)が、
人質として他の国に送られることになりました。
このころの中国では、
しきたりとして同盟国に自分の跡継ぎを人質として送っていたそうです。
どこの国も考えることは同じですね。

その王子様のお供として、
恵王の部下である一人の男がついていくことになりました。

その部下が、出立前に恵王に尋ねました。

「もし一人の人が『街の中心部に虎が出たぞ!』と申しましたら、
王様はそれを信じなさいますか?」
「まさか」

恵王は答えました。
部下が重ねて問います。

「では、二人の人が同じように『街の中心部に虎が出たぞ!』と申しましたらいかがでしょうか?」

恵王は再び答えました。

「うーん、疑うかも」

部下が、最後に問いました。

「では王様、三人が同じように申しましたらいかがでしょうか?」
「それは信じるな」

この恵王の言葉を聞いて、部下が言いました。

「街に虎が現れるはずがないことは明らかなのに、
三人の人が同じように言えば本当に街に虎が出たような気がしてくるものです。
――私がいない間に、かならず私の悪口を言う者がたくさん出てくるはずです。
お願いです、王様。
その者たちが言うことを、やすやすと信じないでください。
私を陥れようとする者たちが、根も葉もないことを言いふらしているだけなのです。
私に対する悪口がうそかまことかは、
ご自身でよくお考えになったうえでご判断ください」

恵王は言いました。

「分かった。自分でよく考えて判断するようにしよう」

その言葉を聞いて、部下は王子様と一緒に出発しました。

王子と部下が国を去った後、
部下である男の悪口を言うものがどんどん現れはじめました。
それ見たことか、です。
恵王は残念なことに、その悪口を信じてしまいました。

時は過ぎ、
人質の期限が終了して、王子様と部下である男が魏に帰ってきました。
けれども恵王は二度と部下に会おうとはしませんでしたとさ。

※かなり意訳をしております。
興味を持たれた方はぜひ原文をお読みください。

 

信じる? 信じない?

 

以上のエピソードから、「三人虎を成(な)す」という言葉が生まれました。
ちなみにここでの「三」というのは、
文字通りの意味ではなく「たくさん」という意味で使われています。
そこからこの言葉は、
「真実でないウソやウワサも、多くの人が口にすることによって真実と思われるようになる」という意味で使われるようになりました。

SNSで誰もが発信者になれる、このご時世です。
なにが本当のことなのか分からなくなるときもあります。
たくさんの人がそろって言うこと、言わないこと。
根も葉もないウワサに踊らされた恵王のことを馬鹿にせず、
自分の頭で判断するという姿勢が大切なのだと身につまされるお話でした。

というわけで、
本日のお話は「三人虎を成(な)す」についてでした。

それでは今日はこの辺で。
ご機嫌よう!