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蘆花(ろか)忌ーーハンカチを振ってさようなら

蘆花忌

 

 

はじめに

 

ご機嫌よう!
漢検漢字教育サポーターで塾講師の有でございます。

本日9月18日は、明治、大正期の作家、
徳冨蘆花(とくとみろか)が亡くなった日です。

ということで、今回は蘆花をテーマに書こうと思います。

 

別れのハンカチ

 

別れのシーンをイメージするとき、
まず最初に思い浮かべる小道具が
ハンカチではないでしょうか。

遠くに行く男性を、女性がハンカチを振って見送る。

いささか古典的ではありますが、
古い映画などを見ているとよく出くわす場面です。

日本で初めてこのシステムを採用したのが、
蘆花だという話があります。

 

蘆花の小説に
『不如帰(ほととぎす/ふじょき)』という作品があります。

ざっくり言いますと、
幸福な結婚生活を送っていたヒロインが、
結核にかかったことで離婚させられ、
夫を愛しながら失意のうちに亡くなるというストーリーです。

 

明治屈指のベストセラーとなったこの小説のなかに、
次のような場面があります。

 

「それじゃばあや、奥様を頼んだぞ。
――浪さん、行って来るよ」

「早く帰ってちょうだいな」

うなずきて、
武男は僕が照らせる提燈の光を踏みつつ門を出いでて十数歩、
ふりかえり見れば、
浪子は白き肩掛けを打ちきて、
いくと門にたたずみ、
ハンケチを打ちふりつつ

「あなた、早く帰ってちょうだいな」

「すぐ帰って来る。
――浪さん、夜気やきにうたれるといかん、
早くはいンなさい!」

 

※改行の位置は改編しています

 

戦争にいく夫を、
ヒロイン(浪子)がハンカチを振って見送るこのシーン。

一説には、
これが日本初のハンカチを振る別れのシーンだそうです。

 

他にもヒロインがダイヤの結婚指輪をしていたりして、
なかなか小道具も興味深い作品です。

 

また、作中でヒロインが発するセリフにも有名なものがあります。

 

あああ、人間はなぜ死ぬのでしょう! 
生きたいわ! 
千年も万年も生きたいわ!

※改行の位置は改編しています

 

このヒロインの悲痛な叫びが、
多くの人の胸をうちました。

 

『不如帰』は長編ですし、
言葉が古いので読むのが少し大変ですが、
とてもおもしろいのでおすすめです。

 

謀叛論(むほんろん)

 

最後に、
せっかくですので蘆花の名言を一つご紹介します。

 

明治時代に、大逆事件という事件がありました。
明治天皇を暗殺する計画をたてた」という容疑で、
12人の社会主義者が証拠もないまま処刑されたのです。

 

この出来事を受け、
第一高等学校(現在の東大)の生徒たちに向けた講演会のなかで
蘆花は次のように語りました。

 

諸君、
謀叛(むほん)を恐れてはならぬ。
謀叛(むほん)人を恐れてはならぬ。
自ら謀叛(むほん)人となるを恐れてはならぬ。
新しいものは常に謀叛(むほん)である。

 

(中略)

 

諸君、
我々は生きねばならぬ、
生きるために常に謀叛(むほん)しなければならぬ、
自己に対して、
また周囲に対して。

 

※改行の位置は改編しています

 

 

変化を求めて立ちあがることの重要さ、
そして自分ををより良い方に変えていくことの重要さを
蘆花はガツンとパワーのある言葉で説きました。

 

おわりに

 

以上、
蘆花に関するエピソードを二つご紹介しました。

 

読んでくださりありがとうございます。
それでは今日はこの辺で。
ご機嫌よう!