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流れに耳を洗うーー嫌なことを聞いたらどうする?

流れに耳を洗う

 

 

はじめに

 

ご機嫌よう!
 漢検漢字教育サポーターで塾講師の有でございます。

近頃は以前にも増して耳をふさぎたくなるようなニュースが多いです。

嫌なものを触ったら、手を洗ってリセットしますよね。
では、嫌なことを聞いたらどうすればいいのでしょう?

昔の中国に、
嫌なことを聞いた後におもしろいことをした人がいるので、
今日はその人のことをご紹介します。

 

流れに耳を洗う

 

昔々の中国に、
俗世から離れて暮らす許由(きょゆう)という人がいました。

許由(きょゆう)は人格者として評判が高い人でした。
うわさをきいた堯(ぎょう)という皇帝が、
許由(きょゆう)を次期皇帝にスカウトします。

 

堯(ぎょう)帝といえば、
今の日本にも伝わっているほどの名リーダーです。
それほどの人に「次の皇帝にならないか?」と言われるなんて、
ものすごく名誉なことです。

 

けれども、俗世から距離を置いている許由(きょゆう)は違いました。
彼は、
「汚いこと(聞きたくないこと)を聞いてしまって、耳が汚れた」
と言って、
河のほとりで自分の耳を洗ったのです。

 

このエピソードから、
「流れに耳を洗う」という言葉が生まれました。
「俗っぽい成功を望まず、自分一人の清く正しい生き方をつらぬく」
という意味で使われます。

 

ちなみにこのお話には続きがあります。

許由(きょゆう)が耳を洗っていると、
牛を引いた一人の男が通りかかりました。
その男は、巣父(そうほ)といって、
許由(きょゆう)と同じく高名な人格者でした。
巣父(そうほ)もまた堯帝(ぎょうてい)から
次期皇帝にとスカウトされていたのです。

巣父(そうほ)は許由(きょゆう)が耳を洗っているのを見て、
「こんな汚れた水を牛に飲ませるわけにはいかない」と、
牛に水を飲ませず、そのまま家に帰りました。

 

俗世から離れた人にとって、
権力をもつということは俗の極みで、
汚らわしいことなのです。

 

このエピソードは日本でも人気で、
絵のテーマとしても好まれています。
たとえば東京国立博物館には、
狩野永徳が描いたと伝わる水墨画の掛軸
≪許由巣父図(きょゆうそうほず)≫があります。

 

おわりに


中耳炎が怖いので実際に耳を洗うことはおすすめできませんが、
嫌なことを聞いたときにメンタルをリセットする方法を考えておくことは
意外と大切なのかもしれません。

 

以上、
「流れに耳を洗う」
という言葉ををご紹介しました。

 

 読んでくださりありがとうございます。
 それでは今日はこの辺で。
 ご機嫌よう!